昭和55年(1980年)7月23日。この日、神戸電鉄にとって歴史に刻まれる特別な出来事がありました。当時の皇太子殿下・美智子妃殿下(現在の上皇ご夫妻)が、兵庫県立施設の見学のために神鉄をご利用になられたのです。
当時の貴重な資料から、その日の様子を振り返ります。
新開地から志染へ、3000系が駆け抜けた35分間
両殿下は午後3時10分、神戸高速鉄道の新開地駅に到着されました。駅長の先導でホームへ進まれたお二人は、向かい側のホームで歓迎する人々に笑顔で手を振って応えられたといいます。
ご乗車されたのは、当時最新鋭だった**「デ3000形」の4両編成**です。
- 15時15分:新開地駅を出発。
- 運行ルート:新開地駅から志染駅まで。
- 特別運行:途中駅はすべて「無停車」という特別なスケジュールでした。
- 15時50分:志染駅に到着。
わずか35分間の旅でしたが、沿線は歓迎の熱気に包まれていました。

車内での会話:「源平の古戦場はどのあたりですか?」
走行中の車内では、当時の神戸電鉄・中田社長が沿線の案内役を務めました。両殿下は非常にリラックスしたご様子で、車内に掲示された路線図をご覧になりながら解説を求められる場面もあったそうです。
特に印象的なのが、鵯越(ひよどりごえ)から鈴蘭台の間、山間を走る車中でのやり取りです。殿下は中田社長に、**「源平の古戦場、一の谷はどの方向ですか」**と尋ねられました。
歴史の舞台となった土地を走り抜ける神鉄の車窓を、お二人が楽しまれていたことが伝わってくるエピソードです。
鉄道員たちの誇り「在来のままで対応した」
この「特別臨時列車」の運行にあたり、神戸電鉄では事前に綿密な対策会議が開かれました。しかし、注目すべきは当時の判断です。
輸送施設や使用車両について、会社側は**「従前から近代化を進めていたこともあって、在来のままで対応した」**と記録しています。
特別な装飾を施すのではなく、日頃から磨き上げてきた「いつもの最高のサービス」でお迎えする。そこには、神戸電鉄に携わる人々の強い自負とプロ意識が感じられます。
志染駅に響いた歓迎の拍手

午後3時50分、列車が志染駅のホームに滑り込むと、そこには溢れんばかりの歓迎の人波がありました。両殿下は三木管理区長の先導で改札口を出られ、拍手の中をマイクロバスへと向かわれました。
私たちが普段何気なく利用している神戸電鉄の路線には、こうした誇らしい歴史が息づいています。次に神鉄に乗る時は、ぜひ鵯越の景色を眺めながら、この特別な一日に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
